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    • Contemporary Art 2.012展
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  • 支配欲
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    代々木公園。けっこうがんじがらめ。

    グーグルは、学習機能付きサーモスタット等を開発する「Nest」社を32億ドルで買収、個人の行動すべてを把握しようとしているらしい。

    参考サイト:http://p.tl/KhWl

    この会社、元アップル幹部で、iPodの発案者トニー・ファデル氏が設立。住宅設備機器の自動化を考えていて、いつどの部屋にいて座っているのか、寝ているのか、何人で部屋にいるのか、何時ないのか、そういった個人行動の全部がわかるそうで、もはやプライバシーはないのと同じ。

    もちろん自慰だってセックスだってケンカだってドラッグだって筒抜けだ。

    外に出れば、iPhoneでナビで居場所は知れて、SNSとかラインをやってたらもっと完璧。

    なぜならそこにビジネスチャンスがあるからだ、と言う。

    寒いと思えば、暖房が入り、コーヒーが飲みたいと思えば、コーヒーがわいて、おなかがすいたと思えば、冷凍食品が調理されて机に並ぶ。(こんな単純なことじゃないだろうけど)

    って楽しいかぁ?便利かぁ?よくわからん。

    病気で寝たきりだったり、体の不自由な人たちには恩恵はありそうだけど。

    結局、なんでも支配したいのだ。

    (しょせん、貧乏人の強がりかもしれないが)

    お金を手に入れて、それがもたらす快楽にも飽き、残った道は支配なのだ!

    その最終型が、軍隊と戦争に行き着くのは、よくわかる。

    万歳するかないね。

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    Ryts MONET個展 『sisters』
    期間:2月8日〜3月2日(月休)入場無料
    http://coexist-tokyo.com
    後援:イタリア文化会館、公益社団法人東京都歴史文化財団トーキョーワンダーサイト
    Reception-Party 2/8 18:00〜
    昨年、パフォーマーで出演した映像作品も上映します。今回のタイトル、「シスターズ」とは石巻市とイタリア・ローマの近郊のチビタヴェッキオ(Civitavecchio)市の姉妹都市にちなんでいる


    ーーーーーーーー


    伯母に捧げる(悔恨の詩)


    事務所で一人残業をしていたら

    クラブでナンパした女から会いたいと電話をもらって

    ああぁと答えて携帯を切った。

    順番を待っていたかのように事務所の電話がなって

    その丸いプラチックの奥から水鉄砲のように飛び出した

    母の甲高い声が鼻先をかすめて弾けた。


    おばちゃん死んじゃった・・・


    受話器にあいた無数の細かい穴の

    権力者の見栄で無駄死にした兵隊たちを弔う巨大な墓碑群に木霊(こだま)する

    金属色した亡霊がいたずらをしているのだと錯覚し

    僕は溶けた雲丹のように細い細い電線に吸い込まれていった。

    若くして二人の幼子を失くしたその伯母は

    死線をさまようがんにうち勝ち

    排尿障害に苦しみながらも夫に先立たれ

    ペットボトルを持てないほどのか弱い腕で

    母と一緒に住んでいたのだ。

    僕の母は父と死別し颯爽(さっそう)と新天地を求め走り出した。

    まだ若かった母は第二の人生が訪れたと一瞬のうちに光り輝き

    まだ小学生だった自分にそれはまぶしすぎ

    伯母のもとに送られたのだ。

    そして僕は白い器のなかで徐々に手足をひろげ背をのばす。

    伯母は甥のわがままにいつも笑顔でハイハイと答え

    文句ひとつ言わずに受け入れた。

    高校を卒業するとみんなと違う手足をみせるため

    ヨーロッパの小さな国に飛んでいく。

    そして異国の地を踏んだとたんあれほど厚かった自我の空虚が決壊し

    押し寄せる濁流を体全身で支えなければならなくなった。

    言葉も習慣も食べ物も犬の臭いもまったく違う

    孤独不安寂しさが扁平足な顔を踏みにじる。

    そんな僕に伯母は日をあけずに手紙をよこした。

    僕は日々の辛苦を少しでも和らげようと

    罵詈雑言を並べ立て乱暴に送り返すが

    そんなことにはおかまいなしに

    励ましの言葉が便せんから星砂のようにこぼれ落ち

    カレーやラーメンや好きだった雑誌を送ってくれるのだ。

    しばらくすると僕の体力と気力の焦げ目の面がうらがえり

    過去と日本がどんどん疎ましくなり

    それでも伯母は郵便配達人に化けたように間をおかず

    達筆なペン書きでふるさとにおこった事件や近所の変わった様子や

    たまに自分の短歌が地方紙に掲ったと切り抜きを送ってよこすのだ。

    そして5年もすぎたころ

    行く末の黄色い不安が血管のひだに廃油のようにからまって

    ・・・帰国を決める。


    空港から母と兄がはじめたという小さな会社に直行すると

    伯母もそこで待っていた。

    着くやいなや母はいつ言うかを決めていたイタコように

    伯父はがんで死んだと告げる。

    母は僕に心配を欠けぬよう知らせなかったと数珠玉をもみながら言葉をつなげ

    伯母はその横で昔から変わらない笑顔を浮かべぼやけていた。

    僕といえばそんな会話はほとんど聞こえず

    明日から生きる道のないことに天井がぐるぐる回り

    嘔吐をこらえるので精一杯なのだ。

    もう子供でも学生でもなかった僕は

    生存するに不可欠な社会のレールを大きく踏み外し

    軌道を乗りこなす固い四角い準備に思いが巡るほど賢くなかった。

    当然のように僕は一人暮らす伯母のもとに転がり込む。

    ただしそこは旅立ったときの家でなく共同トイレ風呂なし二間のアパートだ。

    4畳半にしつらえたこたつに二人落ち着くと

    伯母は僕にゆっくり時間をかけて

    伯父の死のあとに続いた辛酸を

    メラニン樹脂のテーブルの上にならべはじめる。

    葬儀での弔いの温かい言葉もつかの間に

    何十年も過ごした小さな借家の整理から

    いばらに光る舞台の幕は払われた。

    目一杯蓄えられた家財道具はすべて処分に回され

    自慢だった武者小路実篤からもらったハガキも海で拾った貝殻も

    布団も熊の置物も茶碗も皿もエプロンもみんなどこかに消えてった。

    どうやってそんな大事業をこなしたかは知る術もないが

    ねぎらいの祝宴などはあるはずもなく

    ダルマ落としの駒のごとく伯母は路頭に放り出される。

    とにかく友人知人とたずね歩き最後は安い旅館にたどりつき

    それで蓄えも尽きるころとうとう母のもとに駆け込んだのだ。

    甘やかされ育った気の強い末っ子の母

    厳しく育てられた従順な長女の伯母

    二人のソリはマシュマロで獅子脅しを奏でるように相いれない。

    それでも決して仕事が満帆ではない母は伯母を受け入れて

    会社の手伝いで日々の生き甲斐を与えてくれた。

    こたつを挟んで向かい合っていた伯母はそこまで話すと

    何かふと思い出したかのように体をうかした。

    安普請のアパートに1つだけあった箪笥の一番下の引き出しから

    濃い紫色のちりめんの風呂敷包みを取り出して

    固い結び目を解いていった。

    息をのむ。

    風呂敷の中身にすっかり殴打され

    その物質を表音文字に置き換えていいのか迷い戸惑い体が凍る。

    と感じただけでそのあいだは一瞬なのだ。

    僕の中学高校の卒業アルバム。

    伯母は雨露をしのぐため放浪したときもあったと語った。

    それまでにも数々の艱苦をくぐり抜け

    最後の仕上げの夫の死別でざっくり削り込まれたその体躯には

    どうみてもこの大きな包みはそぐわない。

    それにもまして伯母の楽しい思い出の品々はあふれるほどたくさんあったのだ。

    僕は一緒に住んでいたからそれらを知らないわけはない。

    不意打ちにしびれた唇はありがとうと倍音交え震え

    言葉にしようとするがままならない。

    だったら手にとって開いてみたらと耳鳴りもするが

    そんな勇気は異国を去るとき捨て去った。

    どこかで覚えた校章の浮き彫りされたアルバムが

    凛として眼前に迫ってきたのがあまりにも僕を圧倒したのだ。

    伯母はそんな僕の気持ちをまるで沖積世から決まっていたかのように

    ふたたび風呂敷で包み逆回転の映画のように

    好きなときに見なさいと狭い背中を蛍のように点滅させて

    同じところにゆっくり収めた。

    伯母はふたたびこたつに座り直すと

    何事もなかったように微笑みながらお茶を注いだ。


    それから月日が流れ母と兄の会社は人にだまされ倒産し

    兄は離婚し二人の子供は嫁が引き取り

    母は伯母を真似るがごとく知人を頼ってさすらうことに。

    それからさらに月日を重ね年老いてきた母と伯母は

    身を寄り添いやっと平安が訪れたかに思え

    何もしてやれなかった僕も安堵した。

    ただしポーズはいっときの気休めとうすうす気づいていたのだが

    案の定ときおり伯母から電話がかかってくるようになったのだ。

    伯母の語るありふれた会話のなかに隠したはずの嗚咽は抑えきれず

    母も伯母がいないときを見計らいまくしたてる愚痴の数々に相づちを打つ暇もなく

    ひたすら我欲に夢中になっていた僕はそんな関係が煩わしく

    忙しい忙しいとテレビのような呪文を唱え続けるしかなかったのだ。

    僕はいきなり後頭部から発射した脳みそのように

    人工的につくられた闇がよどんだ夜に飛び出して

    巨大な墓碑群の間を走りぬけ伯母のもとへと駆けつける。

    すでに大勢の警官たちが狭いアパートの色あせた畳を踏みならし

    ダンスパーティーのような騒がしさに目がくらみくるくると崩れ落ち・・・。


    ああ伯母よ。

    湯船のなかでやせ細ったしわくちゃな裸身をみんなにさらし

    鼻孔も半開きの口も湯にどっぷり浸し

    ほぐれた髪の毛は水面でゆらゆらゆれる。


    ああ伯母はなんて健気な人なのだ。

    つねに満面の笑みを絶やさず

    毎朝こうやって体操しているんだよと

    か細い腕を左右に振っては自慢した。


    あるとき自ら命を絶とうとアパートを飛び出してみても

    警察に連れられ戻ってきては何事もなかったように

    唯一の趣味の短歌をチラシの裏に記していた。


    僕はそんな伯母のやさしさに耐えきれずいつも逃げ回ってきたのだ。

    静かに死んでいった伯母はいまさら懺悔する僕を許してくれるだろうか。

    この身勝手な自分をはたして許してくれるのだろうか。

    何もしてあげられなかったこの僕をほんとうに許してくれるのだろうか。


    ああ伯母よ。

    あなたは生きることの感動を教えてくれた。

    ほんとうのやさしさを教えてくれた。

    勇気と強さを教えてくれた。


    ああ伯母よ。

    あなたほど耐えることを知った人間は他には見たことがありません。

    あなたほど気高く生きた人を他に見たことがありません。

    あなたほど素晴らしい人はこれからも一生会うことはないでしょう。


    おばちゃんほんとうにどうもありがとう。

    こらからは常世(とこよ)でゆっくりおやすみください。

    あなたほど現世(うつしよ)で一生懸命生きてきた人はいないのだから。

    (了)20140117
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